ベルギー チョコレート事情

ブリュッセルの中世のグランドプラスでは、100 年前にジェン ヌイハウス セカンドによって作られた“プラリネ”を販売する店内に観光客が群がっているのを良く目にする。 

ベルギー経済情勢局が出した統計ではチョコレート製品の約45000トンが去年アジア諸国に輸出された、となっている。10年前は15000トンだった。去年中国に輸出されたチョコレートの価値は2320万ユーロ、2006年ではわずか380万ユーロだった。ヨーロッパのワインがアジア諸国で注目を浴びたように、チョコレートに価値を見出す消費者が増えている。「中国では中産階級や上流階級層が増え、贅沢で高品質のチョコレートは嗜好品として重宝され始めている」とガレット氏。

チョコレート産業組合の長である同氏は、その独特の匂いで悪名高きフルーツ、”ドリアン”入りのマレーシア製「ベルギーダークチョコレート」はベルギー製の本物のチョコレートの価値や存在そのものを脅かしていると嘆いている。

これらの商品はベルギーのチョコレートメーカーが求めている“高級感”とはかけ離れているのが実態だ。ハンガリーやイスラエルそして中国も「ベルギー ロイヤルフレーバー」や「ベルギーのレシピ」を謳っている商品を出しているが、それらの何れもベルギーで生産されているわけではない。 “ベルギー”という単語そのものがチョコレートブランドと化している。 この業界の専門家はこの事実は消費者に混乱と誤解を招いていると指摘している。 また本物のベルギー製品の販売促進を脅かし、現在急速に成長しているアジア市場に投資しているショコラティエの努力を阻害しているとも述べている。 これらの製品は低品質で低価格だが、同じく店頭に並ぶ本物のベルギーチョコレートとラベルを見ただけでは一見区別がつかないことが大きな問題となっている。

ベルギーは、世界最大のチョコレート産業国だ。毎年40億ユーロもの売り上げを誇っている。 欧州でのチョコレート消費市場が昨年5%縮小した中、ベルギー国内でさえ減少した。 一方アジアでの売上高は、3年間で倍増し、上昇を続けている。 アジア諸国での消費は北米を抜かし、ヨーロッパに次ぐ第2位の高級チョコレート市場となった。
 
しかし知的財産権を保護することは、模倣品の拡散が数十年にわたってまかり通っているアジア市場に参入しようとする多くの産業界にとっては共有の問題だ。 危機感を覚えているベルギーのショコラティエは彼ら自身のブランドを守ろうと模索している。 ベルギーのチョコレートメーカーはフランスのシャンパン地方や生ハムとチーズで有名なイタリアのパルマ、スティルトンブルーチーズやパイで有名なイギリスのメルトンモーブレイのように、その場所のみで生産された品物がスパークリングワインやその他の生ハム、チーズと一線を引くことができるよう、EUが指定する発祥生産場所を限定した基準法に申請することを検討している。これが承認された場合、施行までには数年かかると見られているが、実現すれその他のEU諸国では厳しい基準を満さない限り「ベルギー」という文字をラベルに入れるのは不可能となる。 最初のステップではヨーロッパ内での保護に繋がるだけかもしれないが、これがその他の海外諸国での措置にも繋がっていくと見られている。

ベルギー国内には2000を超えるチョコレートショップが有り、レオニダス、ヌイハウス、ゴディバなどの世界的に名が知られている有名店から、手作りを誇る職人気質の小規模なショコラティエまで含まれる数百もの生産者が存在する。

彼らは、ヨーロッパや海外で好まれるテイストそのものにも変化が生じているため、フランス、スイス、ドイツ、英国で行われている“チョコレートの味の改革”に追いつくため苦心している。アジア市場ではベルギーの生産者が伝統的に生産してこなかったダークでより苦いチョコレートを好む傾向にあり、欧州や北米では、ダイレクトにウエストラインに響く砂糖と脂肪を多く含むチョコレートに対し消費者が警戒し始めている。

そんな中12年前にブリュッセルに1号店を出したピエールマルコルニー氏はダークチョコレートにベルガモットやタイム、サフラン、マンゴなどのフレーバーを取り入れた。また5年間の中国滞在中にインスピレーションを得たという”金柑とビターチョコ“の組み合わせを試みたローラン ジェルボー氏など、彼らは当初、同僚たちから理解を得られなかったという。 新進気鋭だったジェルボー氏は塩漬けのナッツを入れたチョコレートを考案した時には破産寸前だった。

彼らは幸運にも大成功を収めたが、海外進出を目論む者も古くからの製法にこだわり国内のみで展開している者もベルギーのチョコレート業界の模索する日々はまだしばらく続きそうだ。