たまにわコラムその11~パラダイムシフトあれやこれや~

テニスにまつわるコラムをまじかながお届けしていきます。

前回のコラムでテニスに代打を送り込めることを驚きの「パラダイムシフト」という表現で紹介しました。
さて、パラダイムとはもともと言語や科学の用語ですが広辞苑によると、転じて一般化され「一時代の支配的なものの見方や時代に共通の思考の枠組み」を指すようになった、とあります。

身近な例では例えばコロナ禍により近所のスーパーでアナウンスされるようになった店内放送に「お互いを思いやって距離をとりましょう」という印象的なものがありました。

これはまさに「膝をつめて」という言葉が象徴してきたような「距離が近いことこそが親密・親切」だったはずのパラダイムがシフトしてしまった結果、と言えるのでしょうか。
そんなことを考えながら、今回また幾つかのエピソードを取りあげたいと思います。

その1:「斜に構える」

ご存知の通り、正面から対応せず素直な態度を取らないような意味を持つこの言葉は、あまりよい意味で使われることはない印象です。
ところがテニスコートで「斜に構える」ことはよいことです。
もうお分かりでしょうが、ダブルスの打ち合いで対角線の相手に打ち返すことはセオリーとされていますし、シングルスでも「クロスに打つ」と言うのはもっとも基本的な技術です。
テニスの世界では「真正面」から受け止めるというパラダイムは捨て、「斜に構える」ようにシフトすることが王道です。

その2:「キレる」

日本ではどことなく「モノにも心がある」かのように捉える価値観があって相対的に「モノにあたる」ことに対する厳しさがあるからでしょうか。
ラケットでコートを叩いたりすることもジュニアの試合では厳しく見られ警告対象とされるケースも珍しくありません。(単純に紳士淑女のスポーツにおけるふるまいとしてふさわしくないからでしょうが)
ところが、オランダのトーナメントで幾度となく遭遇するのは、特に若い世代のオランダ人選手が試合中に「キレる」場面です。
あの腕っぷしで思いっきりボールをフェンスに打ち込み、それでも飽き足らなければ上空にボールを吹っ飛ばすなど、その迫力たるや次は自分に向かってボールが飛んでくるのではと一瞬すくむほどです。
一度など、少し離れたインドアコートの屋根まで飛んでいったボールをわたしが取りに行ったことさえありました。
程度の差はあれ日本でももちろん同じようなことをする選手もいますが、どことなくばつの悪い空気が発生することは否めません。

とはいえさすがは寛容の国、観戦している周囲もさして気にすることもなく何事もなかったように試合は再開します。

しかもそれを終えるとその選手はスッキリと息を吹き返すのだから、これはれっきとした戦術の一部とも言え、なかなか捨てたものではありません。
みなさんも「耐える」ことが美徳、のような同調圧力由来のパラダイムを手放し、ときに型破りなふるまいでスッキリするのがよいかも知れません。