ゆるいベルギーで
はじめまして。白乃ちえこと申します。
ベルギー在住で、以前暮らしていたオランダにはずっと愛着を感じています。
これから折に触れてベルギーにゆかりの話などを投稿させて頂く予定です。題して「ゆるベル通信」、文字通り「ゆるいベルギーからのゆるいお便り」です。
どうぞよろしくお願いします。
さて、「ベネルクス」などとひとからげにされますが、オランダ在住のみなさんにも違和感がおありではないでしょうか。
言葉も、考え方も、食卓に並ぶものも、交通マナーも、人びとの大きさに至るまで、ことごとく異なるではありませんか!
せっかくこんなに近くにある違う世界、楽しんだもの勝ちですね。
暖かくなるこれからの季節、コロナウィルスによる規制が緩和された折には、ぜひ足をのばして味わって頂ければと思います。
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「ゆるいベルギーで」
日曜日の朝、ご主人たちはいそいそと焼き立てのパンを買いに出かける。
この国の人たちが世界の人びとを向こうに回してでも譲れない、唯一絶対のこだわりは「美食」ではないだろうか。
ついでにパン屋の看板娘が可愛かったら、売り上げに差が出るのも人間の、いや、殿方のさがゆえであろう。
さてあるとき、静かな住宅地に不釣り合いなものものしさで警官たちが立ち働いていた。
近所のパン屋へ向かう夫がそのうちのひとりに訊ねると「ここだけの話なんだけどね」 とややださらしない風情で制服警官が眠い目をこすりながら答える。
「ほら、隣りのF国大統領と北米のA国大統領、今ベルギー訪問中でしょ、明日あそこのレストランでランチをするから安全点検してんだけどさ、朝っぱらから駆り出されて大変なんだよね」
通りすがりの一市民がそんなことを知ってはいけないと言って、ドイツ人の夫は自分のせいでもないのに律儀に後ろめたさを感じていた。
ところで拙宅の子ども部屋からそのレストランの入り口は丸見えである。腕利きスナイパーでなくても狙撃できたことだろう。
またあるときは、高校生の息子が海外からひとりでベルギーに戻った際、ドイツのパスポートとベルギーのIDカードの提示を求められたのにうっかりIDを忘れたと息子が伝えたところ、入国管理担当官は
「じゃあ、今度ね」
ベルギー人はゆるい。そして人のことは言えない、ベルギーで生れ育った息子もまた有望な一市民である。
(つづく)
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