女性3人でハーグにお惣菜店開店
左から小林礼子さん、河津招子さん、塙明子さん
ハーグに女性3人で切り盛りしている和食のお惣菜屋さん「Hachi」がオープンしたと聞き、さっそく訪ねてみました。市立美術館の近くの高級住宅地にあるショッピング通りにあるお店は、入り口に大きな提灯、明るくオープンで入りやすい雰囲気でした。広々とした店内にはお惣菜用のショーケース、料理をつくるオープンキッチン、そして居心地のいい木のテーブルと椅子が並べられており、テイクアウトだけでなくイートインも可能です。まず3人のうちのひとりでお店の経営と経理を担当する塙明子(はなわあきこ)さん(以下A)にお話を伺いました。途中から手のあいた小林礼子(こばやしのりこ)さん(同N)と河津招子(かわづしょうこ)さん(同S)にも加わってもらいました。
P: オランダにはいつから住んでいらっしゃるのですか? オランダ移住のきっかけを教えてください。
A: オランダ移住の目的はずばり子供の教育です。オランダに来る前は夫の仕事でイギリスに住んでいたのですが、帰国が決定してから、やはり子供の教育には海外がいいと思いが強くなりました。それから各国で教育ができる場所を探したのですが、オランダは起業ビザが取りやすいという情報を得て、2016年にオランダで起業し移住することにしました。そのときは今やっている飲食業としてではなく、経理サポートという業務で起業ビザを取りました。 今6歳の娘は4歳のときからハーグのドイツ系インターナショナルスクールに通っています。そこでは、ドイツ語だけでなく、英語、オランダ語も学べるので、とてもバランスがよいと思ったからです。娘はすでに4ヶ国語を話し、のびのびと育っていますよ。子供が小学校を終えるまではオランダにいたいと思っています。
N:私も教育移住です。上の息子が小学校を終える2017年1月に、息子2人とともにオランダに移住してきました。子供はオランダの現地校に通っています。2人とも最初はオランダ語を学ぶコースに入り、2年目からは通常のコースに転入し、今では問題なくオランダ語でオランダの教育を受けています。海外で子供の教育をしようと思ったのは、日本の公立小学校の教育に疑問を感じたのが大きな理由です。公立小学校では、とにかく先生たちが事務処理やレポート書きで忙しく子供の教育にかける時間が少ないのです。それとやはりグローバルな視点に欠けるような気もして、海外での子育てを計画していました。もちろんイギリスやアメリカも考えましたが、オランダはビザが取りやすいという理由でオランダになりました。
P: ということは、ご主人様はおふたりとも日本に置いて来られた?
A: はい。夫は日本の仕事に満足していますし、子供とも毎日FaceTimeアプリで会話していますから、寂しくないと思います。
N: 私も夫は日本です。今回の教育移住にも大賛成でした。
P: 最初はお二人ともお子さんの教育が目的でいらしたわけですが、今年の3月にこのお店をオープンすることになったのはどういう経緯からですか?
A: 最初は、経理サポートや移住サポートをやっていました。経理サポートは日本の顧客のためにオンラインで経理業務を引受け行うというもので、オランダにいても日本にいたときと同様に業務を行っています。礼子(のりこ)さんとは2年前から親しくしているのですが、2人とも料理好きで「いつか飲食関係のお店を開きたい」という夢がありました。私は経理サポートのほかに、オランダに移住を考える人のために移住サポートもやっていたのですが、去年(今の共同経営者である)招子さんから移住相談を受けたのです。和菓子屋を始めたいという招子さんは、相談の後、一度は移住を諦めたのですが、今年の初頭にまた「お店を始めたい」という強い希望があり実現化に向けて話を進めることになりました。それから招子さんのために物件探しをしていたところ、たまたま居抜きのまま使えるというこの店に出会ったのがきっかけで、私達(明子さんと礼子さん)の飲食店開店の夢がまた頭を持ち上げてきたのです。それならいっそのこと3人で始めようということになり、話はトントン拍子に進み、2月には契約書にサインし、3月にオープンという超特急の展開でした。
P: それにしても超特急。そして素晴らしい行動力ですね。お店のデザインや献立はどうなさったのですか?
A: ここは前はイタリアンのデリだったのですが、壁を白く塗り替えるのとランプシェードを変える以外はほぼ何もしていないんです。そのまま使えたのはラッキーでした。「Hachi」という店名は、覚えやすい名前ということで数字の一「Ichi」という意見があったのですが、末広がりの「八」を選びました。たまたまリチャード・ギア主演の「Hachi」という映画が海外では有名だったらしく、お客様から犬の名かと聞かれることがよくあります(笑)。 店のロゴは数字の8を縦と横に組み合わせたものです。 メニューと料理指導はスペインから呼んだ知り合いのシェフにお願いしました。料理は好きですが、やはり20人分以上を作るというのは全く別のものですから。今はカツカレー、鶏の照り焼き、茄子田楽といったお惣菜のほかに、お寿司やお弁当を作っています。デリバリーサービスも始まります。それと、社会衛生に関する試験を受けて合格したので、ライ晴れてアルコールの出せる店になりました。6月からはイートインの時間を午後10時ごろまで延長し、レストランにする計画です。
P: お子さんの教育とお店の経営はうまく両立していますか? これまで一番むずかしいと思ったことは?
A: 子供を学校に送ってから仕事を始め、5時頃に子供を迎えに行きます。そのあとは、(子供がいない)招子さんがお店をやってくれています。今のところとてもうまく行っています。 私は日本では外資系証券会社に勤務し、米国の会計士の資格を持っていますので、主としてお店の経理と経営、そしてマーケティングを担当しています。 礼子さんは、日本では保育関連の仕事をしていましたが、このお店では調理担当です。接客は招子さんが主としてやっています。それでも人手が足りないのでアルバイトのかたもお願いしています。収支ですか? 今の所そこそこですが、これからアルコールも販売でき夜遅くまで開店することになれば、もっと売上は上がると見ています。 難しいのは用意するお惣菜の量だと思います。週末はお客様も多くたくさん売れますが、週日は作りすぎると残りも出るのです。なるべく自分たちで持ち帰るようにしていますが、やむなく廃棄する場合もあります。廃棄はやっぱり心が痛みます。
P: オランダに移住してきたのが今年の3月。そして休む間もなくお店の開店という、怒涛のような日々を送ってきた招子さん。オランダはいかがですか?
実はまだ何もみていないのですよ。本当に最初からすべてが新しいことばかりの忙しい日々が始まり今に至っています。私の夢は海外でビジネスに挑戦することでしたので、その夢の実現に一歩踏み出したことを嬉しく思っています。