セージのコラムVol.12 旅の途中 ~さようならsumi~
sumiは黒のラブラドール。真っ黒の艶やかな毛並みが自慢のエレガントな犬だった。
そんな彼女がこの11月に16歳と半年の生涯を閉じた。
声を思い出せないくらい大人しい子だった。
人が大好きで、特に自分を撫でてくれそうな人には体当たりしていくヤンチャな反面、パーキンソン病を患い足腰が不自由な義母には、いつもいたわるように寄り添う気配りの効く良犬だった。
生まれた時から2組4人のパパの間で育てられた彼女は、他の飼い犬に比べると少し特異な環境にいたのかもしれない。それでも2つの家庭の間を行ったり来たりしながら生活して、それが生まれながらの彼女のスタンダードだった。

① 後ろ姿もエレガント
11月の中旬に歯茎が異様に腫れているのに気がついて、獣医に連れて行った。組織の検査をするまでもなくその場で癌宣告を受けた。左上の歯茎に突如現れた腫れ物は、もちろん彼女にとっては鬱陶しいに違いなく、それでも食欲や散歩欲は変わりなく、恐らく深刻な時は間も無く訪れるかもしれないと覚悟しつつも、まだしばらくは現状を維持できるものと信じていた。
獣医の診断では、恐らくかなりの痛みも伴っているとは知らされたものの、いつもと変わらず食事の時間になると、早く飯を出せと催促する姿は以前と何も変わりなかった。
シェアしていたカップルには、獣医の診断を共有すると、すぐさま安楽死すべしの連絡が来た。つい先週まで彼女のケアをしてて、口元の腫れにも気づかなかったのに、なんでこんなにキッパリと諦められるのか、全く理解できなかった。
彼女が我々の生活に加わった16年前から、ずっとずっと一緒に育ててきて、子育てについてもこれまで全く意見の相違もなかっただけに、ここに来て初めて違う選択肢を取り得ることに驚き、戸惑った。
彼らの言い分は彼女は相当な苦痛の中に生きていて、これはQOL(Quolity Of Life)のレベルを超えているという点。このまま彼女を放置するのはエゴ以外の何ものでもない!という強い意思表示だった。
分からなくもないものの、食事時には嬉々として食器の前に居座る様子や、散歩の時間になるとそわそわする姿は相変わらず続いており、生きていけないほどの苦痛を感じているとは到底思えなかったので、彼らの言い分にはとても違和感を感じた。
取り敢えず、そんな様子を彼らも自分達の目で確かめて欲しくて、一旦彼女を彼らに連れ戻すことにした。が、数日後、やはり彼らの考えは変わらないとのことで連絡があった。
それなりの覚悟をして、彼女を再度引き取り、その時が来るまでゆっくりこちらで預かる決意で望んでいた。
数日後、なぜか昨年亡くなった自身のパートーナーのお義父さんが夢に出てきた。最後は認知症が進み、耳にできた癌が元でゆっくりと亡くなったのだが、彼が「痛みから解放してあげなさい。」と夢の中で言っていた。なぜか同じ朝に、パートナーも翻意して安楽死に賛成の意思を表示して、道筋が決まった。

②元気な頃のsumi
睡眠剤はあっという間に効き始め、最初は何事かが起こる予感が怖かったのか、4人のパパの元をかわるがわる歩いて周り、頭や体を撫でてもらっていたが、やがて力尽きるように彼女は4人の真ん中で静かに横たわった。
まもなく撫でたり摩ったりするのにも全く反応しなくなると、するすると脱糞し始めた。それは体の中の最後の“生“を吐き出すかのようで、途切れることなくそれは続いた。その時、初めて、直感的に、彼女の魂が彼女の体から離れていくのを強く感じた。
あれから1ヶ月が過ぎたが、あんなに強烈な最後を目の当たりにしたにも関わらず、不思議なことに今でも彼女はあちらの家に行っていて、間も無くこちらに帰ってくる気がしてならない。もう呼んでも帰ってこられないところに行ってしまったことが全く信じられないのだ。
そして思い出すのはまだ艶やかな真っ黒な毛の彼女が、ボールを投げると一目散に駆け出して、走り回る元気な頃の姿。
2025年は、自身の還暦を迎える年であり、パートナーは65歳、二人が知り合って15年などなどの諸々の周年記念ということもあり、夏が始まる前頃に友人達を集めてささやかなパーティを開くことにした。そしてサプライズでその場で結婚式を行なった。
sumiももちろん出席していて、見知った友人達の間を楽しげに歩き回っていた。
ハッピーと悲しみはいつも隣り合わせ。
そのパーティのお祝いに友人がsumiの肖像画を描いてプレゼントしてくれた。彼女の性格を余すところなく描き上げられたその絵は、どんな写真よりも彼女の姿や心を体現していて何物にも代え難い至宝だ。

③いつまでも一緒に
(文と写真 by セージ)