「さすらいの百姓」 森田早紀さん

自称「さすらいの百姓」というかなりインパクトのある肩書を持つ森田早紀(もりたさき)さんにインタビューしました。アムステルダムの中心地にあるオーガニックカフェで待っていたら、びっくりするほど童顔な女性が重い荷物をかついでやってきました。「今は日本に住んでいるのですが、昨年まで勉強していたオランダに3週間ほど滞在中なのです」と人懐っこい笑顔が印象的でした。

P: 「さすらいの百姓」ってどういう意味なんですか?

S: まずは百姓ですが、農民という意味のほかに、百の仕事という意味があります。畑を耕し農作物を作るだけでなく、ほかにも興味のあること、特に暮らしに関わることは積極的に実践していきたいというのが、今の私です。さすらい、というのは、地域だけでなく分野もさすらうということから来ています。日本全国、世界各地という地域で、農や食を軸にしつつも、医療、教育、アートなど、多岐にわたる分野で活動したいと思い名付けました。

P:  オランダにはいつ、何のためにやってきたのですか?

S: 2018年に、オランダ東部にあるワーヘニンゲンのそばにあるファン・ハレ・ラーレンスタイン応用科学大学(Van Hall Larenstein University of Applied Sciences)に留学するためきました。この大学は農業科学で有名なワーヘニンゲン大学(研究大学 WO)とは別の大学で、大学です。ここで4年間学びBBA(経営学士)の資格を得ました。

P: 高校を卒業してすぐにこの大学に留学したのですよね? なぜ農業に興味を持ったのですか?

S: 生まれは東京なのですが、小学校2年のときに埼玉県の熊谷に引っ越しました。そこで祖父母が農業を営んでいたので農業は身近なものでした。また高校1年のときに、県が主催するアグリ・ハイスクールというプロジェクトに参加し、農業に興味を持ちました。高校2年のときには、このまま日本の典型的な流れに従って大学に進学するか、それとも別のなにかをやるか迷ったのですが、最終的にこのオランダの大学のアグリビジネス学部に進学することに決めました。

このカリキュラムは、生産から流通そしてマーケティングまでを学ぶ農業に特化した経営学部です。「農業大国」と呼ばれるオランダで、英語で学べるということで選びました。

P:  大学の勉強で印象に残っていることはありますか?

S: グループのプロジェクトで、事業計画を立てて学年末のビジネスフェアで展示発表するというものがありました。CEO、CMO、CFOなどの役割分担もし、サンプル商品も作り、フェアの際には銀行やスーパーマーケットの方が審査員として周る、などかなり本格的なものです。フェア後に実際に起業するチームもあり、実社会に近い環境で学べるのはこの大学の特色なのではと思います。

P: オランダは小国ながら世界第2位の農産物輸出国です。効率重視、大量生産の農業をどう思いますか?

S: 難しい問題です。化学肥料や農薬を使った大量生産を非難するのは簡単ですが、消費者は安い農産物を求めていますし、生産もそのシステムの上に成り立っています。これは構造的な問題で、すぐに解決方法を見つけられるものではありません。今、オランダで一番問題となっている窒素汚染対策としての畜産農家の削減や規制も、環境保護の観点からは一理あると思いますが、実際の農家の立場を考えると必ずしもうなずけることではありません。

ただ、効率を求める大量生産型農業が進んでいると同時に、オランダのオーガニックや自然農業も増えています。他のEU加盟国と比べてまだまだなところもありますが、人と自然を従来の形でつなげる農業、複雑な販売網を通さずに直売を行う農家など、オランダ人特有の起業家精神を発揮したビジネスが育っているのだと思います。個人的に関わるとしたら、人や動物、環境への優しさを核に持つようなものに惹かれますが。

P: 昨年4年間の大学を終えて日本に戻りましたが、現在は何をやっているのですか?

S: 農業と福祉の事業を軸に、社会課題の解決に取り組む企業で働いています。私自身の主な役割は、主に知的障害者が生活しているグループホームの世話人と、ホームとして藍染め事業にも取り組んでいるので、その藍栽培の現場監督もしています。今までの福祉や、さらに言えば日本社会の働き方にとらわれない新しい働き方を模索し実践できる素敵な環境です。「さすらいの百姓」としては、講演や執筆のお仕事を頂く機会もあり、全国各地の仲間の畑にお邪魔したり、農作業のお手伝いをしたり、畑でウクレレを弾いたり。これからも、地域や分野の垣根を越えて学び、笑い、活動していけたらと思っています。

P: 将来の夢は?

S: やりたいことは沢山ありますが、今特に燃えているのは…

ひとつは、今は実家暮らしなのですが、自分自身のスペースも一拠点としてあったらなと思い始めました。人を呼んでポットラックパーティや勉強会ができるような場所、子どもたちが遊び学べるような場所。

あとやはり、今回改めてオランダの農園などを周ってみて、日本とオランダを繋ぐような仕事をしたいと思いました。その一つとして、オランダの地域や自然を大切にする農業分野での取り組みを様々な角度から探究し、解説できるような人材になりたいです。逆に、日本の豊かな文化や精神性を伝えることもしてみたい。日本各地の土壌や農業技術、そしてそれに育まれてきた文化を紹介する本を作りたいです。こちらは友達の自然栽培農家さんと作戦を練っていて、ぜひ海外の方にも手に取ってもらえるようにできたら、そこから逆輸入のような形で日本の方々にも興味をもっと持ってもらえたらと考えています。

最初の子供っぽいという印象は話し始めてすぐに消え去りました。そこには、しっかりと自分軸で考え行動に移すという実に素敵な女性がいました。

さすらいの百姓: 

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