セージのコラム Vol. 11
お客さんがオランダを訪ねて来た時に、特に遠方からであれば尚更、是非ともお連れしたい個人的にオススメのとっておきのスポットってありますよね?
20年ほど前、在オランダの日系企業に勤めていた頃の元上司Aさんのお気に入りの場所はヒートホールン(Giethoorn)。日本の柳川を思わせる水郷の村は特に何があるわけでもないのですが、小さなボートに乗って水路を巡るスタイルが、日本からのお客様をお連れするととても喜ばれていたようです。オランダでは切っても切れない水辺の生活を体感する場所としては最適ですよね。

1. ヒンデローペンの工芸品 数名いる作家さんの工房が点在してるのでそれぞれ訪れるのも楽しい
別の元上司Bさんのお勧めはなんと言ってもヒンデローペン(Hindeloopen)。同じく水際でもこちらは北海やバルト海への貿易で富を成したリッチな村。沖に出る船を腐食から守るために始まったペンキ塗装の技術と木工品を組み合わせたペンキ塗りの民芸品が今でも有名です。名物のマスタードスープを振る舞うレストランにお連れするのも定番のプログラムでした。途中に通る大堤防の景観もダイナミックで喜ばれますよね。
そんな中私がオススメするのは、少し定番過ぎかもしれませんが、ナールデンです。アムステルダムから車で15分ほどなので、特にアムステルダム在住の方にとってはザーンセスカンス(Zaanse Schans)に次ぐ人気スポットではないでしょうか。

2. ナールデンの見どころの一つ旧市役所
売りはなんと言ってもその独特な現存する見事な星形要塞の中に町がすっぽり囲まれていること。中心に位置する大教会(Grote Kerk)と旧市役所(Raadhuis)の建物も可愛らしくて訪れた人を喜ばせてくれますよね。砦の一部を使ったオランダ要塞博物館(Nederlands Vesting Museum)も必見です。元々は武器庫だった質実剛健な建物アーセナル(Arsenal)は、現在は高級なインテリアショップが集まっていて、なかなか手が出るものではないものの、現代オランダインテリアインダストリーのハイエンドを垣間見るのはとても楽しいです。また町の中に数あるレストランやカフェも評価が高くいつも賑わっています。

3. 土手の下に並ぶ窓は昔の兵舎を利用したレストラン
星形要塞と言えば、日本では五稜郭がとても有名です。星形要塞自体のルーツはどうやらイタリアにあるようですが、実は歴史的に世界のあちこちに存在してるのはご存知でしたか?オランダにも実は数多存在するのですよ。
ということで要塞都市をテーマにあちこち紹介するのも楽しいかも!なんて考えていたら、ANWB(日本のJAFのような組織)がVestingSteden(要塞都市)を巡る旅ということで既に特集していました。オランダ国内だけでその数なんと160以上もあるというから驚きです。
https://www.anwb.nl/wandelen/nederland/tips/vestingsteden
あちこち検索してみる中で、どうやらオランダで一番完全に整備され残された要塞都市は北東部のブールタング(Bourtange)のようです。残念ながら訪れたことはないのですが、写真で見るだけでもその美しい造形美にうっとりしてしまいます。
ゼーランド(Zealand)を旅していた時に、とあるホテルを予約したのですが、生憎オーバーブッキングでチェックインができないことがありました。近場のホテルをアプリで急遽探していて偶然見つけたのがウィレムスタッド(Willemstad)という町のホテル。ロッテルダムの近くなのですが、この町も実に見事な星形要塞に立つ町でした。港にはレストランが立ち並び、ホテルもシックでお洒落でした。

3. ウィレムスタッドの港 レストランが立ち並び賑やか
冒頭のナールデンもそうなのですが、唯一残念なのは見事な星形が現存しているとは言え、実際その地を訪れて堤防を歩いて周囲を巡ることはできても、なかなかその全容を俯瞰して眺めるのが難しい点です。

4. ナールデンの星形の一部を土手の上から見ても…あれ?
そこで登場するのがスマホの地図。思えばスマホが普及する以前、私たちが地図に触れるのは紙に印刷されたものが一般的でした。生活の中で目にする地図は、例えば通り名まで確認できる縮尺が大きなものから、世界地図のような縮尺が極小なものまで用途に応じて使い分けて備えていましたよね。
それが今や手のひらでマップアプリを開いて、指でピンチイン、アウトすることで自由自在に縮尺を操れるのは画期的。スマホの登場で日常的に地図に触れる機会がグンと増えたのは私だけではないと確信します。

5. 前述のブールタングをスマホで見ると… 航空写真モードにするとリアルです。
以下に挙げる都市は暇に任せて拡大縮小して見つけた要塞都市認定の町です。実は身近に見事な要塞都市がそこかしこにあることに驚きます。
ズボーレ(Zwolle)、ライデン(Leiden)、マイデン(Muiden)、ヴェースプ(Weesp)、ワーヘニンゲン(Wageningen)、デーフェンター(Deventer)、レーワールデン(Leeuwarden)、デンヘルダー(Den Helder)、アルクマール(Alkmaar)、ハーレム(Haarlem)、ユトレヒト(Utrecht)、トーレン(Tholen)、ブリーレ(Brielle)、フェーレ(Veere)、フルスト(Hulst)
これらの要塞都市としての機能の多くは15世紀から18世紀の間に作られたようですが、それだけ外敵との攻防戦が、この小さなオランダのあちこちで繰り広げられていたことを想像すると、とても感慨深いものがあります。
先日ゼーランドのミッデルブルフ(Middelburg)を訪れたのですが、こちらも典型的な要塞都市の一つでした。(後で地図アプリを拡大縮小してて初めて気がついたのですが…)町の中心にあるゼーウスミュージアム(Zeeuws Museum)はゼーランド州の過去から現在までを紹介する博物館。16世紀にはスペイン艦隊との攻防の様子が壮大なタペストリーに紡がれているのを目の当たりにできます。

6. ミッデルブルフのゼーウスミュージアムの外観
要塞都市といわれると、日本人としては各地のお城やお堀の風景を思い浮かべます。しかし、日本のお城はどちらかというと、城主の権勢を誇る意味合いも強く城内は主に武士の居住地であったのに対し、オランダの要塞都市は既存の商業都市を外敵から守るために作られたこともあり、一般市民の住居から商業エリアまで町全体がすっぽりと囲まれいてるのが大きく異なります。
オランダは16世紀から17世紀にかけては80年に渡るスペイン支配からの独立を勝ち取るための戦乱が続き、その後19世紀にはナポレオンのフランスによる侵略がありました。20世紀に入るとプロイセンからの攻撃にも晒されています。
それらに対抗するために生み出されたのが、要塞、砦、砲台、水門、堀や運河を戦略的に配備し、水を利用した防護網を築いたウォーターライン(Hollandse Waterlinies)と呼ばれるものでした。
小さな国土のあちこちに実に46ものウォーターラインが築かれ、それは水量をコントロールすることにより、時に浸水を特定の広範囲の区域に意図的に発生させて歩兵や馬兵の進軍を阻み、またある区域では水量を減らして船を立ち往生させることもできる画期的なシステムだったとされます。
然しながら第二次世界大戦では戦闘の主体が飛行機となり、ウォーターラインの防衛機能としての役割の大半は失われてしまいました。
そのウォーターラインのうちユニークでより歴史的価値が高いとされた、アムステルダム防衛線(Stelling van Amsterdam)はユネスコの世界遺産にも指定されて(のちにニューホーランドウォーターライン(Nieuwe Hollandse Waterlinie)も加えられた)、今では観光名所として、また教育やリクレーションの場として活躍しています。

7. ナールデンでの観光案内所でもウォーターラインの説明展示があります。
話は地図に戻りますが、今ではGoogleのストリートビューやAppleのルックアラウンドで、地図から任意の場所を選んで360°のパノラマビューを見る事ができますよね。特にストリートビューの方はタイムマシン機能でこのサービスが始まった2007年頃まで遡ることができる場所もあります。目まぐるしく進化するこの手のサービスは、AIが本格的に動き出した今、もしかしたら10年もすれば中世の頃まで遡れるようになってたりして、なんて想像するとワクワクしますよね。
(文と写真 by セージ)