セージのコラム Vol.13  ハンザ同盟の街 ~Harderwijk~  

スマホで地図を見る時に気になることがあります。私はAppleのiPhoneを利用していて、地図のアプリもAppleのものを使っています。ここオランダに住んでいると地図の表記を日本語にしたらいいのか、現地語での表示にしたらいいのか迷うことがありませんか?

もちろん現地語で表示した方が、特に車を運転してナビとして利用する場合は、実際の道路標識と同じになるのでそれに越したことはありませんよね。ただ、それだとなんと発音して良いのかわからないことも多く、特によその国、アラビア語やギリシャ語、その他諸々になると国名さえも読めなくなるので、仕方なく日本語表示を選んでしまっています。

さて、本日ご紹介するのはHarderwijkというオランダの町です。自分のあやふやなオランダ語の知識では“ハルダーヴァイク“が私の耳ではそう聞こえるのですが、Appleの地図では“ハルデルウェイク“と表示されるので、少し違和感がありますよね。

1 立派な町の紋章

常々疑問ではあったのですが、海外の都市あるいは固有名詞の日本語の表記は誰が決めるのでしょうね?ロンドンやパリといった有名な大都市であれば、何らかの歴史的な文献から引いてきたりするのでしょうが、実際文献に載らないようなマイナーな町や村についての定義とかあるのでしょうか?

こういう論争になると、人名にしても例えば、長らく有名なゴッホを例にとってみても、最近こそ、“ファンゴッホ“と表記されるようになってきましたが、子供の頃は“ヴァンゴッホ“でしたよね?そしたら名前は“ヴィンセント“じゃなくて、“フィンセント“の方が良くない?とか、そもそも“ゴッホ“の“ゴ“もゴじゃないよなぁ、とモヤモヤしています。

話が逸れてきたので本題に戻りましょう。

この街を訪れたのは一昨年の秋でした。私のパートナーの友人とランチを一緒にすることにしたのですが、彼女達は国の東の方に住んでおり、我々は西の方。彼女達が選んだのが丁度中間あたりに位置するこの町のレストランでした。

正直言って馴染みのない地名だったので、どうせ大したことのない港町なんだろうな、とタカを括っていたのですが、実際訪れるとどうしてどうして中世の面影をしっかり残した品格さえ感じる街並みだったのに驚きました。

2 町の中心にある旧市役所の建物

どうやらそこはあの有名な“ハンザ同盟“に属していたのだとか。あの世界史に出てきたハンザ同盟!を急に身近に感じた瞬間でした。

ドイツで始まったハンザ同盟はてっきりドイツのものだと思い込んでいましたが、実は国境を超えてオランダにもしっかり浸透していたのですよ。今更ながらオランダからは実に22の都市が加盟していたと知り、少しびっくりしました。

3 Vispoort (魚の門)は当時から残っている建築物。かつては魚市場がありました。

有名なところではアムステルダム、フローニンゲン、アーネム、ハーレム、ズヴォーレといったところから意外にも南部のドルドレヒトまで広がっていたとのこと。

それでは皆さんスマホを手に取っていただき、Harderwijkの位置を確かめてください。

水辺の町ではあるようですが、向かいにはフレヴォラント、後ろはVeluweの森林地帯に囲まれた自然豊かなロケーションです。

しかーし!このハンザ同盟に加わった頃のHaderwijk、時は14世紀。町が勃興したのが13世紀の初めとのことなので、日本では鎌倉幕府が始まった頃でしょうか。

 4 Vispoortは城壁の一部でもありました

大堤防が築かれアイセル湖が内海になったのは20世紀に入ってから、このフレヴォラントの広大な土地が干拓され出現したのも実に1950年代であった事実を考えると、当時のHarderwijkはバリバリの海際の港町だったわけです。

オランダの地形の歴史はとても興味深く、実は2000年前の紀元直後のオランダは現在の西フリースラント諸島が陸地の北限でアイセル湖は元々小さな湖(フレヴォ湖という名前)だったとされています。

現在の状況に近くなったのは1200年代で、その間湖は海へと変わり、ゾイデル海(Zuiderzee)と呼ばれるようになりました。(Zuiderをゾイデルと読ませるのも少し違和感を感じますが)1932年に完成した大堤防により再び淡水化されアイセル湖となった経緯があります。

なので当時のHaderwijkは正真正銘、目前には陸地のかけらもない海水の港町だったわけです。しかしながらハンザ同盟で活躍した小さな町は、その後皮肉なことに東インド会社が権勢を誇るオランダの黄金時代が始まり、貿易の中心がバルト海からより西方の大西洋に移るに従い廃れることになりました。

20世紀になり大堤防が完成し、大干拓地フレヴォラントの出現で港町としての役割は終えましたが、その後は海洋レジャーや欧州最大の海洋哺乳類公園のドルフィナリウム、新鮮なシーフードを活かしたグルメの町として今でも魅力的です。

5 ドルフィナリウムの周辺は現代的に整備された海洋レジャー基地になりました

以前に紹介した星形要塞都市を訪ねる旅同様、オランダにあるハンザ同盟の町々を訪ねる旅もまた楽しそうですね。かつての栄華を極めた場所は今でも輝きを放っています。

(文と写真 by セージ)