オランダ政府、Nexperiaに異例の介入 ― 中国支配への懸念強まる

オランダの半導体メーカー「Nexperia」が、再び地政学的な技術覇権争いの中心に立たされている。今回はASMLのような高額装置ではなく、安価で単純なトランジスタをめぐる問題だ。

政府は、中国資本による支配を懸念し、極めて異例の強硬措置に踏み切った。経済省は「重大かつ緊急の経営上の欠陥」を理由に、1952年制定の「物資確保法(Wet beschikbaarheid goederen)」を初めて発動。この法律は戦時や非常時に必需品の供給を確保するためのもので、Nexperiaの経営判断を政府が差し戻す権限を持つことになった。事実上、同社は1年間、政府の監督下に置かれる。

この決定に先立ち、Nexperiaの取締役会はオランダの企業裁判所(Ondernemingskamer)に申し立てを行い、親会社Wingtech(中国)のCEO、張学政(Zhang Xuezheng=通称Wing)を職務停止とした。張氏は「地政学的偏見だ」と反発しており、中国メディアでも強い反発が報じられた。これを受け、Wingtechの株価は10%急落、上海証券取引所は取引を一時停止した。

Nexperiaとは

本社はナイメーヘンにあり、ダイオードや小型チップなど、あらゆる電子機器に使われる基本的な半導体を年間1000億個以上生産。従業員は1万2500人、年商は約20億ユーロ。元はフィリップス傘下のNXPの一部門で、2017年に中国投資家グループが買収、2019年にはWingtechの完全子会社となった。

背景と問題点

Nexperiaはもともと安全保障リスクが少ないと見られていたが、米中の技術対立が激化する中、2022年には英国政府が同社による現地工場の買収を「安全保障上の脅威」として取り消すなど、欧米での警戒が強まった。
経済省によると、張氏の下で「中国人幹部の戦略的配置」や「他社との利益相反」があり、技術流出や欧州の生産基盤への支配リスクが生じていたという。

法的・政治的意味

「物資確保法」の発動はオランダ史上初であり、経済安全保障を理由に民間企業の経営に政府が介入する極めて異例の措置となる。専門家は「このケースが本当に『非常事態』に当たるのか」「国家安全保障か、単なる経済的保護主義か」という点に疑問を呈している。

現在、経済省の決定に対し、関係当事者が異議申し立てを行う可能性がある。企業裁判所は事件の詳細を公表せず、審理内容も非公開のままで、透明性の欠如が指摘されている。

要するに、オランダ政府は、中国支配下にある半導体メーカーNexperiaに対して、国家安全保障を理由に「戦時法」に相当する法律を初めて適用し、経営への直接的な介入を開始した。これは、欧州の戦略的技術産業を守るための新たな転換点とみられている。