セージのコラム Vol.5 これからの旅のスタイル ~クルーズ船かキャンピングカーか?~

- サンタ·テクラのお祭り、スペインのシッチェスにて
先日日本から高校時代のクラスメートがアムステルダムヘ遊びに来た。ベルギーに短期留学する娘さんの付添いとのこと。ここでは丸一日時間があるので、観光に付き合うことにした。事前に行きたいところを尋ねたら、結構長いリストが届いた。
美術館や博物館、運河巡りのボート、郊外のザーンセスカンスも行ってみたいし、お昼はここ、午後のお茶はここかあそこ、といった具合。

- ザーンセスカンス
案内する側の心理としては、もちろん具体的に挙げてもらうのは、いちいちお伺いを立てながら好みを聞き出す手間が省けて助かることは事実。車を出すタイミングや行程を考えて、それに従って行動するだけだ。
聞くと情報の出所は老舗の旅行誌とのこと。なるほど。きょうびこんなに微に入り細に入り解説してくれるのかと感心した。
思えば、自分はガイドブックというものを買ったことがほとんどない。いや、確かに以前は「地球の⚪︎⚪︎⚪︎」とかを買っていたことはある。が、このネットの時代になってからは特に予習が必要な時はせいぜいネットで検索する程度だ。しかもAIがあるイマドキにおいては、サーチの幅は格段に広がり簡単にもなった。
前回のロードトリップでも触れたように、基本的に白紙から始まる旅が好きだ。それはロングウィークエンドでシティトリップをする時も同じ。フライトとホテルと、パートナーが一緒の時は空港間の送迎タクシーを予約することもあるが、出発前に手配するのはそのくらい。最近は事前に予約が必要な美術館や博物館が増えているが、予約まですることはあまりない。
では旅先で一体何をするのか?歩くのだ。もう本当に街の隅々まで歩きまわるのだ。そうしているうちに、ここだ!というカフェやショップにきっと行き当たるし、なんてことのない路地裏から覗く風景に心を奪われることもある。

- ポルトにて路地裏から見上げた風景
パートナーも間も無く退職するので、元気なうちに世界をヨーロッパをあちこち旅行したい。となった時、熟年の旅行スタイルとして思いつくのがクルーズ船だ。最近身の回りでもちらほらクルーズ旅行にハマる友人知人もちらほら。一度乗ると病みつきになるとも聞くが、なぜか自分は触手が伸びない。
それは多分、自分が好きな旅のスタイルは自由気ままなものだからだと思う。スケジュールがきっちり組まれたクルーズの旅行は少し窮屈に思えてしまうのだ。
だから、自分が選ぶのは行き当たりばったりを楽しめるキャンピングカーの旅なのだと思う。こちらも未体験なので、そうなのだ!と断言できるわけでもないし、もしかしたら一度やってみて、二度とご免となるかもしれないが、興味はある。

- 楽しいフランスの田舎道もキャンピングカーならのんびり回れるのだろうなぁ。
ご存知の通りオランダは欧州でも指折りのキャンピングカー大国だと思う。(勝手な想像だが。)以前スイスに住んだ経験のある知人が、スイスの山道で渋滞を引き起こすのは、いつもノロノロ走行するオランダナンバーのキャンピングカーだ!と断言していた。(彼はオランダ人をこき下ろす性分があったようにも思えるが…)
日本ではキャンプサイトが欧州ほど整備されていないのかもしれないが、キャンピングカーでの旅は少し難易度が高い気がするし、するにしてもどちらかというと若者が好むスタイルに思える。
オランダでこれだけキャンピングカーが親しまれているのは、実はオランダ人の旅行スタイルは私が好む気ままな旅に通じるところがあるのかもしれないと感じるのだ。そしてその旅のスタイルを楽しむのは子連れのヤングな家族からかなり高齢のカップルまで幅広い。
とここまで書いたところで何か足りないことに気がついた。そう、それはもう一つの実は隠れて人気急上昇のスタイル、別荘派!だ。

- ご両親の南仏のお家の庭。とにかく蝉がうるさいくらい。
私のパートナーの亡くなった両親は南仏のプロヴァンスの鄙びた村に小さな一軒家を所有していた。別荘というほど華美でも豪華なものではなく、まさにアルプスの少女ハイジのおんじのお家のような感じ。丘陵地にポツンと建っていて、遠く離れたお隣さんは農家だったので、りんごや杏の木に囲まれていた。冬に訪れても快適なようにリビングには大きな暖炉があり、避暑の為には簾で日陰を作った気持ちの良いテラスがあった。
そこはお二入がバリバリの現役の頃からすでに手に入れていたので、パートナーは子供の頃には年に2回それぞれ1週間ほどそこで過ごすのが定番の旅行スタイルだったらしい。少し大きくなると友人たちを連れて訪れたりもしてたそうだが、ご両親はどうも他の場所にはほとんど旅行をされなかったようだ。
亡くなる何年も前に手放したので、今ではもちろん訪れることもないが、彼らの年に2回のバケーションが若い頃から何年も何年も同じ場所ということが、どうもピンと来なくて、自分は余り興味の対象ではなかった。

- 友人の家族が所有するイタリア、サンレモの郊外の村にある別荘にお邪魔した
しかし、ここのところ身の回りで別荘というか第2の棲家を手に入れる友人たちがちらほら増えてきた。スウェーデンの湖の畔とか、オランダの小さな島テクセルだとか、日本の京都や鎌倉の郊外に古民家を手に入れたなんて羨ましい話も最近は漏れ聞こえてくる。
そんな中スポットを当てたいのは、同世代のゲイカップルの友人だ。彼らはスペインのシッチェス(ゲイの誰しもが憧れるバロセロナ近くのビーチタウン!)にフラットの1部屋を所有していて、年に何回も週末を利用して滞在を楽しむ生活をもう10年近く続けている。
旅行好きな彼らはアジアへもアメリカへも数ヶ月毎にアクティブに旅行して周り、その合間の口直しにここを訪れるのだ。しかしここに来て引退後のことを考えると、ベッドルーム1つの手狭なアパートよりももう少し快適で広い場所が欲しくなって、前回の滞在時に不動産屋に飛び込んだらしい。店先に並べて表示してある特定の物件に目をつけたわけでもなく、エージェントに自分たちの希望をいくつか伝えて、急ぐことはないので何かいい物件が出てきたら知らせて欲しいと伝えたそうだ。

- 憧れのシッチェスはバルセロナ近くの海辺の街
果たして数日後エージェントの女性から連絡があり、今から1件見に行かないかと誘われた。自信満々で披露された物件は海に近く、ベッドルーム2つにシャワートイレも2つずつ、建物の最上階で上階からの音に悩まされることもない上に、大人数でのバーベキューも余裕で楽しめそうな大きなルーフテラス付き、お隣の邸宅の庭の広大な森の借景もあり眺望は素敵、と望みをほぼ100点満点で叶えるものですぐに飛びついたとのこと。
そんな話を聞いているとこんな旅のスタイルもアリなのかなと思えてくる。彼らはクルーズは好きだけど、キャンピングカーには絶対手を出さないタイプなので、この別荘派はもしかしたらその中間くらいにあるのかもしれないが、クルーズ派やキャンピングカー派とは少し違う立ち位置の、第三の主流な旅のスタイルなのかもしれないな。などとつらつら思いながら次の旅行のプランを思いを寄せるのがまた楽し。
(文と写真 by セージ)