セージのコラム4: お気に入りの旅のスタイル、ロードトリップ

ここ数年、夏休みには南仏へのロードトリップが恒例になっています。オランダ起点で旅行する利点はなんと言ってもこの地の利。地続きなので車でのんびり旅行する楽しみは尽きませんよね。アムステルダム~ブリュッセルが約250kmなので、ざっと2時間半。毎日5時間くらい運転しながら移動するなら、10日もあればのんびりペースでも結構な距離のロードトリップが楽しめます。
定番のデスティネーションは南仏モンペリエの近くの小さな村にあるイギリス人のカップルが経営しているヴィラ。ホストのセンスがお部屋の調度やサービスにも現れていて、毎回リラックスして贅沢な時間を楽しめます。
夏休みにはまずはそこのお気に入りの部屋を4、5泊リザーブします。休み自体は2週間ほど取るので、前後の4、5泊ずつを途中の街に寄り道しながら、ゆっくりゆっくり進んで行きます。出発前に予約してる宿泊施設はその最終目的地のみで、あとは気の向くまま地図と睨めっこでその日その日のルートを決めるのです。
オランダから南仏に向かう王道はナンシー、ディジョン、リヨンの凡そ1200Kmの一直線ルートですが、同じルートを行き来しても飽きるので、去年はノルマンディからドルドーニュ経由したから、今年は、スイス寄りのアルザス経由もいいよね、という感じで大まかに決めるのです。
最近は車載やスマホのナビがいい仕事をしてくれますが、この手のロードトリップで欠かせないのはなんといっても紙のミシェランの地図に尽きます。地図には都市や町の訪れるべきグレードが星付けされているのと、道路自体にドライブ向けの景観の良さが色付けしてあるのですよ。なのでフランスの整備された高速道路(一部はしかも有料!)はなるべく避けて、地道を時間をかけてのんびりドライブを楽しみます。通り掛かりに見つけた素敵な村のレストランで昼食を楽しんだりも楽しい。

- ミシュランの地図にはドライブ向けの便利な情報が満載
お昼を過ぎる頃に、今晩たどり着けそうな街に目星をつけてBooking.comでホテルを予約。ホテル予約サイトは大手のホテルチェーンだけではなく、個人経営のヴィラやB&Bまでカバーしてるのが嬉しいですよね。これは昔の旅行スタイルでは絶対成し得なかったネット時代ならではの恩恵。
フランスは特にレストランホテルであるローカルな人々にも愛されるオーベルジュが数多あるので、今晩はどこに泊まろうかとサーチすること自体が楽しみでもあります。時には素敵なお城や貴族の館もあれば、水際のコテージや教会を改装した施設などなど。車での移動が基本なので、無理して街中の狭くて味気のないチェーンのホテルを選ぶ必要はありませんし、何よりも重い荷物を持って目的地を求めて右往左往することもありません。
もちろんガイドブックに紹介されているホテルのようなある程度約束された安心感とは少し違うかもしれませんが、自分の手で旅行を作りあげる醍醐味があり、大当たりのホテルにたどり着いた時の喜びはひと塩ですよね。特にオーベルジュでお部屋も食事も大満足の時は自分だけの宝物を見つけた喜びをひしひしと感じます。
一例に昨年のルートを記してみます。
1日目 アムステルダム ~ コンピエーニュ (Compiègne)
2回の世界大戦のドイツとの休戦協定の舞台となったコンピエーニュの森。なんとなく歴史の教科書に出てたかな、程度の前知識しかなかったのですが、壮大なコンピエーニュ城は歴代フランス国王たちに愛された経緯もあり、ヴェルサイユやフォンテーヌブロー宮殿に並ぶフランスでも重要な王宮。

- 旧市街の教会も立派な佇まい
2日目 ~ ジェルブロワ(Gerberoy) ~ サン·マロ (St-Malo)
お昼近くになり、昼食が取れそうな街を探していてジェルブロワを見つけました。「フランスの最も美しい村(Les Plus Beaux Villages de France)」にも選ばれており、ミシュランの地図にも2つ星がついていたので期待が持てます。

- 花が咲き乱れる
実際は全くそれを裏切らず、アネモネや紫陽花が咲き乱れ、可憐で素敵な村でした。小さなレストランでは日替わりのキッシュと新鮮なサラダで素朴ながらも大満足。

素朴なランチ
モンサンミッシェルを遠くに眺めながら海辺のドライブ。今回は先も長いので、立ち寄りませんでした。

遠くにモンサンミッシェルが!
以前に旅した際には駐車場がいっぱいという理由だけで、通り過ぎたサン·マロ周辺で宿を見つけました。郊外でしたが貴族のお屋敷だった建物に惹かれて即決。併設のレストランでの食事も評価が高かったのですが、ここで失態。レストランの空きがあるのを確認する前にホテルを予約してしまったのです。そしてレストランはあいにくの満席。しかも当日なのでキャンセル不可。ホテルに到着してチェックイン時に横目に眺めたレストランはクリスティの小説に出てきそうな豪華絢爛な装飾でした。

クラシックなお部屋も素敵
涙を飲んで、夕食は城壁に囲まれたサン·マロの街に繰り出しました。夕闇迫る城壁からの風景はとてもロマンチックで壮大。これだけでも価値はあったのかな、と自分を慰めました。入ったレストランは少し居酒屋っぽくて、タパスのような小皿料理とガレットはそれなりに満足。

雲間から光が漏れ出す風景の神々しいこと
3日目 ~ プレビノン(Plévenon) ~ ラルモール·プラージュ(L’Armor-Plage)
ここからブルターニュ地方に入ります。西の方には来たことがなかったのでなんだか新鮮。標識もケルト系のブルトン語とフランス語の2言語表記になりました。
ミシュラン地図では星3つ表記のカップ·フレヘル(Cap Fréhel)を見つけて寄り道することに。その前に立ちはだかるのはフォート·ラ·ラット(Fort la Latte)。海に向かう絶壁の崖の上に聳える美しいお城。狭いながらも跳ね橋で隔離されており、15世紀に建設されたとのこと。その特異な景観と環境から現代では映画の撮影にも頻繁に利用されてきたとのことで、城内には撮影風景の様子も展示されていました。

こんな崖のてっぺんに要塞が!
そしてカップ·フレヘルは崖の景観が美しい景勝地で、レンガ作りの大きな灯台がシンボル。

花が咲く頃にまた訪れたい
そこから南下して、地図の緑色の眺めの良いルートを辿りつつその日の宿はロリアン(Lorient)の南のビーチサイドのベストウェスタン系列のホテルを選びました。なぜかこの系列のホテルとは相性が良くて、ハズレを引いたことがないのです。それと良いレストランを併設してる傾向が高く、コスパが良いです。今回のホテルもモーテルスタイルのワンフロアの平たい作りの建物で、部屋の外はそのまま水辺の景観につながっていました。夕焼けを眺めながらの夕食も素敵でした。

気持ちの良い夕暮れ
4日目 ~ スシニオ城(Suscinio) ~ モレイユ(Moreilles)
海辺の気持ち良い道路が続きます。ミシェランの地図ではやたら景勝ポイントつきまくりだったのがモルビアン湾周辺(Golfe du Morbihan)。湾内の小島に渡りウォータースポーツやサイクリングを楽しむのがオススメのようですが、ここではスシニオ城を訪れることにしました。13世紀の重厚で美しい佇まいのお城ですが、内部はとても近代的な展示がなされていました。中世の生活を映像やホログラムを駆使しての解説が素晴らしかったです。

広大な自然の中に佇むスシニオ城
敷地内のガレット専門のレストランでの食事も満足でした。
地図と睨めっこして、その日はラ·ロシェル(La Rochelle)くらいまでドライブできそうなのでその界隈でお手頃なシャトーホテルを発見。実際はシャトーというよりも地元の有力者のお屋敷だったであろう風体でしたが、気持ち良く手入れされた建物は、品よく装飾されており、アジア人とフランス人のご夫婦が家族経営されていました。お庭のテーブルでの夕食は娘さんが食器の準備を手伝い、幼い息子さんは車止めで遊んでました。そして食事が一流レストラン顔負けの品々の見事なフレンチで、ロマンチックな雰囲気の中存分に楽しみました。

またまたクラシックな調度のお部屋
5日目 ~ サント(Saintes) ~ コニャック(Cognac) ~ トゥールーズ(Toulouse)
この日の宿泊はパートナーのお姉さんが住むトゥールーズ郊外にお世話になることにしていたので、少しペースを上げてそちらに向かいます。
お酒で有名な土地は水がいいのか、それとも経済的に豊かなせいか、食事が美味しいのは定番なので、本当はコニャック目指してドライブしていたのですが、どうも時間的に厳しそうになり、途中のサントで食事休憩することに。市が立って賑やかな街の中心は大聖堂が美しく、ローマ時代の遺跡も残っています。

路地裏の風景も絵になる
実は通り越したラ·ロシェルは3つ星評価で歴史的な建物が水際に並ぶとても美しい港町だということに後で気がつきました。また別の機会に是非訪ねてみたいです。
6日目 ~ ロジェ
目的地に到着しました。しばらくはホテルでのんびりと過ごしました。
11日目 ~ エーグ·モルト(Aigues-Mortes) ~ ヴェゾン·ラ·ロメーヌ(Vaison-la-Romaine)
ここからは折り返しです。エーグ·モルトは街全体が中世からの城壁で囲まれた水辺の街。湿地帯や塩田が広がるカマルグ地域に近く、フラミンゴが生息しています。

巨大な城壁が残っています
ヴェゾン·ラ·ロメーヌも中世の面影が残る美しい村ですが、山間の底を流れる川に掛かる古い石橋が、双方の起伏の激しい山肌に2分した村を繋いでおり、独特の景観をしています。

あんな崖の上に村の片方があります
宿泊したのは1500年代と1600年代の二棟の個人の邸宅を使った由緒のあるレストランホテル。お料理の絶品の連続でした。

12日目 ~ ソロン·ラ·リュ (Saulon-la-Rue)
そろそろ旅も終わりです。残りの行程をながめて、ディジョン周辺のホテルを探します。いかにもフランスの屋敷然としたドメーヌを見つけました。お部屋もお食事も少しあざとい感がありましたが、旅行の最後を飾る豪華な雰囲気を楽しみました。
13日目 ~ アムステルダム
夏場のピークシーズンでも、ホテルが満室で見つからずヤキモキしたり、空室を求めてフラストレーションが溜まることは今まで皆無でした。というのもアプリだと空室のある中から探すことになるので、ガイドブックに掲載してあるこのホテルにどうしても泊まりたい!という状況とはまた違うのでしょうけど。
飛行機や鉄道の旅では通り過ぎる小さな街や村が、実は原石の煌めきを秘めた自分だけの宝石になるのですよ。これこそがロードトリップの醍醐味。
そして街並みが徐々に移り変わっていくのを目で見て感じられるのも楽しい。アルザスの木組みの家々の風景も南下するにつれてブルゴーニュの石作りの建物に変わっていきます。南仏のゴッホが描いた糸杉のある風景や、蝉の声も北上するにつれて段々消えていきます。そんな体験を自分だけのアルバムに残していく旅。
アルバムと言えば、イマドキはアプリを使って辿ったルートを自動記録して、その日撮った写真をまとめてくれるサービスもありがたいですよね。
- PolarStepsは全自動で旅行のログを取ってくれるので便利
(文と写真 by セージ)