セージのコラム・その2 「大西洋のハワイ、常夏のグランカナリア島 ~Gran Canaria~」

以前旅行会社勤めの頃、お客様からよく聞かれたのが冬場避寒地のデスティネーションでした。夏には大人気の南仏やコスタデルソルもさすがに冬場には寒くなるので、太陽を求めるバケーションでヨーロッパから比較的気軽に行けるのはカナリア諸島一択になると思います。(アフリカ、中近東を除けばですが)一択とはいえ実に8島の選択肢があり、それぞれの島が違った個性を持っているので、ご自身にぴったりの島もきっと見つかると思います。

そんな中から今回はグランカナリア島をご紹介しましょう。テネリフェ(Tenerife)に次ぎ二番目に大きな島。島中央に休火山がありほぼ円形をした島のつくりは屋久島に似た感じですが、面積はグランカナリアの方が3倍ほど大きいです。東側海岸の南北の真ん中辺りにラス・パルマス(Las Palmas)国際空港があり、ヨーロッパの各都市とダイレクトに繋がっています。島の北部にはLas Palmas、南部にはマスパロマス(Maspalomas)の街があります。空港からそれぞれには車で30分弱の距離。海沿いの片道3車線の高速道路で結ばれています。

ラス・パルマス(Las Palmas)はカナリア諸島の2つの州都のうちの片方です。グランカナリア島でも最も大きな街で人口は38万人。島の心臓部です。旧市街のヴェゲタ(Vegueta)地区には“コロンブスの家“と言う博物館があります。よくコロンブスがアメリカ大陸を発見したと言われますが、実は先住民がいたので大陸の発見ではなく、ヨーロッパからアメリカに向かう新しい航路(西廻り航路)を発見したとするのが相応しいようです。それはポルトガルやスペインを出発して先ずはグランカナリア島まで南下、そこで十分な補給を済ませて、西に向かう貿易風と海流に助けられて、一気に大西洋を横切る未開の航路でした。コロンブスは1492年から1504年までの間にこのルートで4度の航海をしています。それに前後するヨーロッパからアフリカ南端への航路もその先インドに向かう航路もいずれもグランカナリアが中継ぎとして重要な役割を果たしていました。そんな経緯でアフリカのモロッコや西サハラ付近の離島でありながら15世紀頃から栄えたスペインの面影のある街です。

実は私が初めてこの島を訪れたのは1989年1月のことでした。その頃大学を一年休学してワシントンDC近辺で語学学校に入っていました。モロッコ人のクラスメートとなぜか仲が良かったのですが、クリスマスの休暇に実家に帰るので遊びにおいでよ!と誘われて、カサブランカを訪れることにしたのです。彼のご実家は裕福でとても歓待されたのですが、毎日の食事が羊の脳とか、噛みきれない何かの肉とか、見たこともないもののオンパレードで、しかもその時風邪気味だったのですが、サービス精神旺盛な彼に日がな一日連れ回されて(というか遊びたい盛りの彼のナンパに連れ回され、といった感も)、すぐにギブアップとなりました。とに角脱出したい一心で駆け込んだ旅行会社で比較的安く入手できたのがラス・パルマス(Las Palmas)行きの片道航空券だったわけです。

ここからは友人と別れて一人旅だったのですが、何せネットも携帯もない時代。島のことは大瀧詠一の“カナリア諸島にて“を聞いて知っていた程度で前知識は何もありません。とりえず空港の案内所でラス・パルマスにあるホテルを予約しました。カサブランカに比べると都会然とはしていましたが、中心街の比較的高層のビル群は古ぼけていて寂れた港町の様相でした。日本食のレストランを見つけた時には、こんな離島に?と不思議に思った覚えがありますが、実は遠洋漁業が盛んで日本の漁業関係者も多かったからだと後で知りました。1970年頃がピークだったようですが、当時は3000人ほどの日本人がここに住み、日本人学校や、日本人用保養施設、日本領事館が存在していたようです。(2003年からは領事館は廃止となり、現在は在ラスパルマス領事事務所となっているようです。) そういえば空港に向かう高速沿いのとあるショッピングセンターの壁面に懐かしいそごうのロゴがありましたが、これもその名残りかも。 

さて、翌日街を探索しながらお土産屋さんで絵葉書を見ながら島の見どころを探りました。どうやらマスパロマス(Maspalomas)という街が楽しそうだということで、すぐにそちらに移ることに。ビルの多いラス・パルマスとは違い、比較的低層なホテル群は壁が白く茶色の瓦屋根で統一されていてエキゾチック。冬なのに華やかに咲き乱れるブーゲンビリアやハイビスカスが、燦々と降り注ぐ太陽を浴びて目にも鮮やかです。ラス・パルマスとは明らかに違うリゾート地の雰囲気に満ちていて、通りを歩く人々はTシャツ·短パン·サンダル姿で、いかにもビーチ帰りといった様子は開放的な気分を盛り上げます。そんな街の風景は人々のファッションや髪型が変わったのを除けば、35年前の当時から今もほとんど変わっていないのです。ホテルやショッピングセンター、レストランはオーナーや屋号の変遷こそあっても、佇まいはあの頃のまんま。

物価は離島の観光地という状況を考えても比較的安価です。口コミサイトでそこそこのランキングにいる街中のレストランでも、軽く前菜、メインを1皿ずつ、ハウスワインをボトルで一本頼んでも二人で€70~80という感じでしょうか。かなり強気の人気店でも€120程度に収まります。野菜類は新鮮で、海の幸も肉類も豊富で、比較的長期滞在やリピーターの観光客をも年がら年中相手にしているだけあって、レストランのレベルは一般的に高いです。

マスパロマス地区は広大なビーチが自慢で、島北部よりも乾燥しており晴れ間が多く、冬場でも比較的安定して日中の気温も20度前後をキープ。紫外線が強いせいか1週間も滞在するとすっかり小麦色に日焼けして、ビタミンDの補給がバッチリできます。特にプラジャ・デル・イングレス(Playa del Inglés)地区は観光客が集まる為宿泊施設がひしめき合っています。どちらかというと長期滞在もできるコンドミニアムやバンガロースタイルが特に好まれているようで、それらは簡易キッチンを備えているので、スーパーで買い出してローカルの食材で料理を楽しむこともできます。

一つ難点はトイレです。お掃除大国のスペイン(と勝手に命名してますが)の影響か、公共のトイレでも床がピカピカでいつもしっかり掃除が行き届いてるところが多いです。が、この島では排水システムが弱いためか、便器に使用済みのペーパーを流すのは御法度になっています。なので便器の横には大きめの蓋付きのゴミ箱が備えられており、そちらに捨てるのがルールになってます。

それを除けば、特に不満な点は思い当たらないくらい、素敵な滞在を楽しめますよ。(Las Palmas行きの高速は特に午後は渋滞が多いとか、風の強い日の海岸沿いの散歩は目に砂が入って痛いとか、レンタカーではマニュアル車がほとんど!とかは、ありますが…)

1週間ほど滞在するのであれば、ビーチやプールサイドで優雅に日光浴を楽しみながらのんびりするのも良いのですが、たまには車を借りて島内を巡るのもGood。特にマスパロマスの街中にはローカルのレンタカー事務所があちこちにあります。最低2日からのレンタルが基本のようです。見どころは島中央部のピコ・デ・ラス・二ーヴェス(Pico de las Nieves)山の辺り。切り立った崖や渓谷の豪快でダイナミックな火山島ならではの荒削りの景観に圧倒されます。マスパロマスから北上すると南部のゴツゴツした赤土の荒野やサボテンが生い茂る様子も、山間部に入ると桜によく似たアーモンドがあちこちで可憐な花を咲かせる風景に移り変わるのを楽しめます。北部は比較的肥沃で農業も盛んです。最近は拡張工事も進んでますが、比較的狭い道が多く、起伏や急カーブだらけなので少し注意が必要です。

マスパロマスの楽しみはなんと言ってもビーチです。市内に何ヶ所もビーチはありますが、デュナス・デ・マスパロマス(Dunas de Maspalomas)という砂漠の向こうのオアシスのようなビーチにも是非訪ねてみてください。あちこちにあるビーチハウスではパラソルとサンベッドを有料で提供しています。簡単なスナックや飲み物も購入できます。片道20分から30分程の砂漠行は忘れられない思い出になりますよ。

(文・写真 by セージ)

<写真説明>

1. MaspalomasのDunas de Maspalomas

2. Las Palmas 市街のビーチLas Canterasは都市にあるビーチでは世界一美しいとの評判も

3. “コロンブスの家“のパティオは美しいコロニアル風

4. “コロンブスの家“の入り口(現在は出口として利用)

5. Las Palmasの旧市街Vegueta地区にあるCatedral de Santa Anaは15世紀初めの着工から350年かかって完成。カナリア諸島で最初の教会。

6. MaspalomasのPlaya del Inglésも冬なのに日光浴を楽しむ人々がいっぱい

7. 12月でも1週間もいれば真っ黒に日焼けします。

8. MaspalomasのPlaya del Inglésのとあるホテルからの風景

9. Maspalomasから山間部に向かう途中の展望台から

10. アーモンドの花は12月下旬から2月下旬まで

11. 火山島ならではの荒削りな景観

12. MaspalomasのPlaya del Inglésから砂漠を望む。ビーチはずっとその奥まで続きます

13. MaspalomasのDunas de Maspalomas