たまにわコラムその9~時間のCULTURE~

テニスにまつわるコラムをまじかながお届けしていきます。

のっけからオランダに関係の無い余談ですが、最近のニュースを見ながら「テニスとかけて米大統領選ととく」というなぞかけを考えてしまいました。
そのこころは、「どちらも総ゲーム数(総得票数)の多い側が必ず勝つとは限らない」というものです。
例えばテニスの3セットマッチで6-4, 1-6, 6-4のようなスコアの場合、勝者の取得ゲーム数は13、敗者のゲーム数は14となり、ねじれ現象が起こり得ます。
米大統領選でも、選挙人制度という州ごとに勝者が選挙人を総取りしていくルールがあることから、前回のヒラリー・クリントンさんのように総得票数で上回りながらも勝利できない、という事態も起こり得るわけです。
重要な州やポイントを取ることが勝負の要諦であることも共通していると言えそうです。
そして、「敗者は相手を称えて握手に応じる」ということも共通点であって欲しい、と切に願うのは言うまでもありません。

閑話休題。

さて、前回のコラムで、オランダには1時間きっかりで終了する大会もある、と触れたことから派生し「オランダ人は時間に正確」という定評があちこちで散見される印象があることに思い至りました。
以前に読んだ「CULTURE MAP」(Erin Meyer 著)は、異文化間の比較をグローバルなビジネスの豊富なエピソード紹介とともに8つの尺度で比較するという、なかなか興味深い本でした。
その中の1つは”How late is late”というもので、時間やスケジューリング対する感覚を国別に評価してスケール上にプロットしています。

それによるとオランダも日本もほぼ同様に”Linear-time側”にプロットされ、ドイツやスイス、アメリカなども同様の側にプロットされています。
一方、その対極とされる”Flexible-time側”には、サウジアラビア、インド、ナイジェリア、ケニアなどがプロットされ、両極の中間あたりにはフランス、ロシア、スペインなどがプロットされています。
「そんなのは個々人の性格によるだろう」など、皆さんそれぞれがモノ申したくなるであろうことはひとまず横に置き、各国比較としては一見イメージ通りのようにも思えたのがわたしの第一印象です。

ですがテニスなどを通じわたしが体験したエピソードを思い出す限り、オランダに関しては「半分納得、半分疑問」というところです。

確かに仕事中のミーティングにおいて、オランダ人は終了時間を意識しながら会議のゴールに向けてアウトプットを出すという生産性を念頭に置いた基本的なスタンスがあるように思います。
とはいえこの手の話題では日本人も「会議の開始時間は正確だけど終了時間には鈍感」と揶揄されますし、以下はあくまでわたし個人の体験ですので悪しからずご容赦を。

その1:試合前ウォームアップ

試合の前にどれだけウォームアップの時間をもらえるかは、大会ごとに異なります。
日本の草大会では、サーブ4本のみですぐ試合を開始してください、のようなケースが多い印象ですが、オランダでは5分程度のウォームアップができることが通常かと思います。
ですが実際に見ていると、わたしのチームメイトだったオランダ人女子はいつもゆうに20分は費やしていました。
これはセルフジャッジの場合、レフェリー不在となり選手の自主性に委ねられているせいもありますが、時間の意識としてはかなり”Flexible”でした。

その2:トイレットブレーク

個人戦のトーナメントに出場した試合前の対戦相手からの一言。
「今日はおなかの調子が良くないから、試合中に何度かトイレットブレークに行くけどよいか?」
この頃、(セルフジャッジへのクレームなどで)試合の中断に敏感になっていたわたしは、思わずけん制球で応じてしまいました。
「いいけどルール通り1回3分までだよ。」
とはいえこれは、わたしが日本のルールブック「コートの友」で認識していた数字であり、その大会で3分と定められていたかどうかも確かめず行ったハッタリなのですが。

かくして試合が進み、1セット目を6-2でわたしが取った直後、相手が実際にトイレットブレークを申し出ました。
試しに時間を測ってみたところ、戻ってきた時には6分を過ぎていました。
生理現象ですからさすがに咎めはしませんでしたが、トッププロでなくてもトイレットブレークをトイレのためでなく戦略的に使うのは常識とも言えます。仮に生理現象を伴わないブレークだったとしたら、これまた”Flexible”な事例と言えます。

その3:着替え

オランダ人から仲間に入れてもらい参加したコンペ団体戦で、試合を控え待機していたときのこと。
「コートが空いたから試合に入って」とチームのキャプテンに言われたとき、ジーンズ姿の対戦相手が一言。

「わかった。じゃあ着替えてくるからちょっと待っててくれ。」

こんなとき、「次に試合だと分かっているんだから着替えくらい済ませておこうよ・・・。」と言いたくなるのはわたしだけではないことを祈ります。