マスク・オン・パレ―ド

コロナ対策としてこのオランダでも6月1日から公共交通機関でのマスク着用が義務づけられている。ヨーロッパ諸国の中でもオランダは最もマスク着用率が低い国だ。
オランダ人はマスクに慣れていないせいもあるが、マスクをつけることに対し極端に嫌悪をむき出しにする人も少なくない。“息苦しくなる”、“マスクは不衛生”、“政府の言いなりにはなるな”などなど・・・。かくいうこの私も実はマスクをつけたことはなかった。
子供の頃からマスクは好きではなかった。冬場マスクをつけて通勤するサラリーマンの姿に異変なものを感じていた。“息苦しくなる”と思っていたのかもしれないが、定かな理由は自分にもわからない。だが、こんな私もとうとう“マスクデビュー”する日がやってきた。
私はいつもは自宅で仕事をしているが、去る2週間ばかり講習の為に毎日電車とバスで通勤しなければならなくなった。公共交通機関でのマスク着用義務が発表された5月中旬から私はマスク作りを始めた。自分の為にではなく、他の街に住む我が娘の為にだ。
娘が住んでいる街は人口も多く夏場には市内でのマスク着用が義務づけされた(今はその義務は撤下された)。しかも、アパートから市内に出るには市電と地下鉄に乗る必要があるので、当然マスクが必要になる。

不器用なくせに手作りは好きで編み物や裁縫は私の趣味である。でも、この“手作り好き”には実は暗い過去が隠されていることを知っているのは家族だけだ。(大袈裟でスミマセン・・・)。私は中学生の時、夏休みの宿題のパジャマが縫えなかった。私の母も裁縫は得意ではなかった。ミシンを買ってもらったにも拘わらずパジャマ作りに悪戦苦闘し両親に転校させてくれと泣きついたほどだ。14歳だった私に家庭科の先生は“貴方はそんなんじゃ将来大人の世界で生きていけないわよ”と告げた。これは、かなりショックだった。
“パジャマが縫えないと大人になれないのか?”と自分自身に疑問を投げた。
だが、もともと何かを作る事が好きだった私はその後好きな物作りたい物を強制的ではなく好きな人の為に作ることを始めた。娘が幼い頃はよく洋服を縫った。
今でもオープンマーケットで布屋さんを見ると胸がウズウズする。

話は長くなったが、こうして私のマスク作りは始まった。
ユーチューブで作り方を詮索し100%綿の布探しから始まりゴムやフィルターなどもオンラインで購入した。初めはプリーツマスクに挑戦したが、プリーツ作りが上手く出来なくてその後は立体マスクのみ作ることにした。作ってみると結構楽しくて、娘の為に10枚ほど作った。自分の分も10枚程作ったもののずっと出番は無しだった。
だが、先々週やっと手作りマスクが役に立つ時が到来して私もめでたく“マスクデビュー”を果たした。電車に乗るのは半年以上振りだったので、初日はちょっと緊張した。
でも、裏表綿100%のモスリンガーゼで作ったマスクはつけてみると思ったより快適だった。電車の中で回りを見渡すと大半の人は青か白の使い捨てマスクをつけていた。
“私のマスクの方が可愛いも~ん”と内心ほくそ笑みながら、毎日違うマスクで通勤した。
数日前には娘から“こんな柄でこんな色のマスクが欲しい”とリクエストが来たので、さっそくオンラインで布を探し購入した。クリスマスには義弟夫婦にもプレゼントしようかなあ・・・でも、使わないかな・・・などと考えている。

たかがマスク、されどマスク・・・どうせつけるなら楽しくなくちゃ!
マスクをつける義務より作る楽しみを私は見つけた。私のマスク作りは当分続くだろう。