オランダあれやこれや

いろいろな人が書くオランダにまつわるエッセー。書き手、常時募集しています

先週の記事より「知らない田舎のおばあちゃんに思いを巡らす」
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皆さん、お元気でしょうか。
七月に入り、夏真っ盛りという感じですが、オランダでは先週は雨続き。セーターにコートを着て外出する日々でした。朝夕には気温が下がりますし、風が冷たくてね。正直、全然夏が盛っている感じはありません。むしろ委縮して、卑下して、元気をなくしている感じ。もし夏が人間だとしたら、夏の草食化も進行中、夏の少子化も歯止めがきかない状態かもしれませんね。そのうち夏がいなくなっちゃう。そんな危機感を深めている今日この頃です。
自分でも何を言っているのかわからなくなってきたところで、先週のニュースです。

http://www.portfolio.nl/news/buz/show/3150

ING銀行というオランダでも最大の銀行のうちのひとつが、支店の閉鎖を加速中だ、というニュースがありました。
かくいう私もING銀行に全財産を預けてあります。皆さんも聞いたことがあると思いますが、ひとつの銀行に全財産を預けないのはリスクヘッジの基本です。色々な銀行に預金を分散させることで、私たちは銀行の倒産や金利変額やサービス内容の変更など、様々な危機を回避することができるのです。
そうした事を理解した上で、何故私がING銀行に全財産を預けているのか。
理由はひとつしかありません。
ING銀行は口座開設の審査がゆるかった。
以上です。
貧乏なその日暮らしのフリーランサーにとって、「審査」という言葉ほど忌々しいものはありません。固定収入がないことに天涯孤独が加わると、銀行に金を預ける事すらできなくなるのです。
別に金をくれって言ってませんよ?預けてやると言っているのです。あなたがた銀行はその私の金を使って、手数料やまた貸しの金利やらを稼げばいいでしょう。
そういう圧倒的に向こうに有利なオファーをしているのに、「いや、お前の生き方は信用できないから」と門前払いをくらってしまう。「うちで口座開きたい?なら、三か月分の給与明細出せよ?出せんのか?」みたいなね。「保証人いるのか?」みたいなね。
バカみたい、たかが口座にさ!
INGはその点、うるさいことは言いませんでしたね。
何にもいらなかった気がしますよ。まあ記憶はおぼろげだけれど、ING銀行の口座を作りながら思ったことは、彼らは外国人の味方、バカの味方、よくわからない曖昧な生き方をしている人たちの味方だなって。
自分の人生を明瞭に説明できない人にも口座は必要です。そうした負の要素を抱えた貧乏人をごっそりと抱えて、それらのわずかなあぶく銭でもってINGはオランダの三大銀行にのし上がってきたのです(個人的見解です)。とにかく手数料さえ払っていれば、何にも面倒くさいことを言わないですから。
そんな彼らが、支店の四分の一を閉鎖するというのです。

支店の閉鎖というと、頭の中に浮かんでくる絵は、ぼぉぉぉっという汽笛の中で立ち尽くす鉄道員、つまりはポッポ屋です。あの、廃路になる駅の話。
過疎の村の中、利用する人の稀な鉄道線は、民営化が進むにつれどんどん閉線されていってしまう。採算がとれないからです。鉄道というのは人間の身体でいえば一種の血管でしょう。もし血管が潰されてしまって血がいかなくなったら、その先の地域は死んで腐ってしまうのじゃないか。だからやっぱり、決して金にはならずとも、一日にひとりしか乗らない地域であったとしても、国が金を使って、資本主義的ではないにしても毛細血管を生かし続けることは必要なのではないか、だってそうじゃなければ死んでいく地域が悲しいじゃないかと、そういう情緒が私には根本的にあるのです。
ですから、ING銀行のニュースをポートフォリオが取り上げた時にも、深夜に酒を飲みながらしみじみと泣きたくなりましたね。吹雪のなかの汽笛が聞こえましたよ。
もっとも私個人の話で言えば、都会生まれ、都会育ちですし、現在もロッテルダムという大都会のセントラムで暮らし、ネットバンキングをバリバリに使いこなしていますから、支店がなくなったところで何の支障もありません。ごくたまに、現金を銀行に入れる必要がある場合にのみ使用する感じです。オランダはカード社会ですから、現金自体、滅多に使いませんしね。しかも最寄りの支店は大きな町のど真ん中ですから無くなりません。

ですから私が悲しいのは自分のためではなくて、田舎に住んでいるお年寄りたちのためなのです。ブラバントとかドレンテとかああいうド田舎の過疎地に、家族もなく暮らしていて、インターネットバンキングなんて聞いたこともないし、よく行く地元のお店はやっぱり自分と同じくらいの年のおじいちゃんが経営していて、そこで流通しているお金は現金のみ。そういうおばあちゃんのためなのです。彼女のお財布は小銭でとても重たいのです。彼女は時々、銀行に行きます。そこには五十がらみの女性行員がいて、おじいちゃん、おばあちゃんにとても優しいんですね。そこで年金を下ろしがてら、ちょっと話をするのです。
ING銀行の支店撤退はそういうすべての温かなつながりを、一切合切おばあちゃんたちから取り上げてしまうのではないか。それが私にはとても悲しいのです。
おばあちゃんたちは、支店なしで不便なく生きていけるのか。それがとても心配なのです。
まあ、そういうおばあちゃんの知り合いはいないんですけどね。
オランダの田舎も怖いから行ったことないんですけど。
 ・・・でもねえ、この、知らない田舎の、知らないおばあちゃんの心配をすることだって、人間にとっては大切なことですよ。黒人差別反対運動だって、世界の大多数の人が知らない アメリカの知らない黒人の心配をすることで大きくなっている訳ですし。
私は今夜も、知らないおばあちゃんのために世を憂い続けますよ。
皆さんも、知らないおばあちゃんのために世界を改善するマインドを忘れないで下さい。