オランダでデザイナーとして活躍するヒロイクミさん

オランダでデザイナーとして活躍するヒロイクミさん

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グラフィックデザイナーそしてアート・ディレクターとして活躍するヒロイ・クミさん。彼女のアトリエを訪ねてアムステルダムの西はずれに足を運びました。アトリエは過去に学校だったという建物の中にあり、彼女は2人の写真家と天井の高い広いスペースをシェアしています。知的で清楚なヒロイさんは、言葉を選びながら丁寧に質問に答えてくれました。P:ポートフォリオ、S:ヒロイさん

P: グラフィックデザイナーというと本やポスターのデザイン、あるいはウェブデザインを考えるのですが、ヒロイさんのなさっているお仕事はそういうものですか?もう少し詳しくお話していただけますか?

H: 基本的にはそうですね。グラフィックデザインとアートの中間に位置するようなプロジェクトもやっています。コンセプトを自分で決め、コンテンツを作り、そのコンテンツをかたちにおとしていきます。デザイナーがなぜアートなのかと思われるかもしれませんが、私が勉強したオランダの美術大学(リートフェルト・アカデミー)ではアートとグラフィックの境界線が希薄な課題も多くあり、そこで学んだことを生かしている感じでしょうか。 そして、通常の(?)グラフィック・デザインの仕事があります。こちらは基本的にはコンテンツをいただいて、本の装丁、ウェブサイト、展覧会のデザインなどのかたちに落としこむ仕事です。最近は、デザインの前から、というか、私にとってはデザインの一部なのですが、コンテンツを作り上げる作業にも関われることが多くなってきたのは嬉しいです。 ある程度の見栄えのいいウェブサイトなら誰でも作れる時代ですから(笑)、グラフィック・デザイナーは、俯瞰的にクライアントのコミュニケーションに関わる問題点をさぐり、その解決策を提示していくコンサルタントのような知識・経験や、コンテンツを作り上げる編集者的な発想を求められるのかなと思います。

P: なるほど、グラフィック・デザインの世界にも変革が訪れているんですね。ところでヒロイさんはリートフェルトを卒業してすぐに起業なされたのですか?

H: 卒業したのは10年前、2008年です。私は卒業後デザイン事務所に就職しました。同級生たちはほぼ全員が卒業後すぐに独立したので、私は例外ですね。オランダはフリーランスで仕事をする環境が整っていること、また政府からアーティスト・デザイナーへの助成金制度が充実しているからかもしれません。私は2社で働いた後に独立しました。

P: 日本でもデザインのお仕事をなさっていたんですか?

H:  いいえ。私は日本の大学では経済学を専攻しました。しかし、ずっと美術には興味がありました。その夢をかなえるために、まずイギリスのデザインスクールに留学し、2005年にリートフェルトに転入しました。当時、リートフェルトのコンセプト主導の授業が自分にあっていると感じたことが一番の理由です。

P: 今やっているアートプロジェクトというのは?

S:  オランダのクリエーティブ業界振興基金(Stimuleringsfonds)と文学基金(Het Letterfonds)の助成で、3つの視点が交差する物語を、写真家と作家と一緒に作っています。まず私と写真家が3枚の写真を作ります。この写真から想像力を得て、作家が3つの文章を書きます。そして次はこの文章から私たちが物語をつなげて写真を作る。この作業を繰り返し、3つの話が出来上がるのですが、3つの視点は、交差したりもしています。2019年1月の発表に向けて作っている最中です。

P: おもしろそうですね。その他のデザインのプロジェクトは?

H: 普段は、オランダの省庁や大学との仕事が多いんですけれど、日本関連のものもあります。今年は、日本人アーティストの本のデザインや、長崎で養殖している真珠を使って、ヨーロッパや日本のデザイナーがジュエリーをデザインするプロジェクトのアートディレクション・グラフィックデザインの仕事などです。オランダにいる日本人デザイナーだからできる仕事っていうのもあると思うので、とても楽しくやらせてもらっています。特に日本語と英語のフォントの組み合わせや、オランダ人写真家と写真を作り上げる作業はやりがいがあります。

P: オランダの政府機関や基金と仕事をするときに外国人であることでなにか障害がありましたか?

H:外国人というところでは障害は特にないです。しかしオランダ語は日々勉強だと思います。オランダの政府機関や基金とはすべてオランダ語でのミーティングです。私は、難しいプレゼンは英語でしますが、オランダ語での他者のプレゼンや質問についていかなければなりません。特にオランダ国土交通省(Rijkswaterstraat)の仕事のときは、オランダ語でインフラ関係の単語が多く出るので、ミーティング・ワークショップの前日には単語帳を作ったりしました。私も分野によって単語力に差があるのオランダ語をちゃんと勉強しようと思います。

P: 起業して一番たいへんだったこと。よかったことは?

H:時間の使い方がとても自由になることはとても良かったと思います。自分の働きたい時間や、休暇の時期や期間も自分で決めることができることは嬉しいです。その反面、そこに伴う責任も負うことになります。「仕事を断ると次はないかも〜」と緊張感をいつも持てることも良いですね。 他に良いことといえば、グラフィックのお仕事は、コンテンツにあったコミュニケーションのかたちを提供することなので、そのコンテンツについて詳しくなれることも気に入っています。アーティストやデザイナーさんとお仕事をするときには、彼らの独自な考え方や手法を、それが本やウェブサイトやどんなかたちになるにしても、彼ららしいものになることを常に考えます。企業や行政とお仕事をするときも基本的には同じで、独自の技術や背景にある物語などの情報を咀嚼してかたちに落とし込むので、その情報について詳しくなれます。そんなところが気に入っています。

P: これからデザイナーとして起業する人へのアドバイスがあれば

うーん。。やはり成功ばかりしようとせずに、失敗してたほうが実は学びはあると思うので、いっぱい失敗することがよいと思います。私も失敗もちょくちょくですが、失敗は挑戦をしなければできないものですし。なんて偉そうですが。。。私も初心を忘れずにやっていきたいです。

Bigfieldman