オランダの会社に勤務しながら子供のための科学教室サイネスを運営する福成洋さん

オランダの会社に勤務しながら子供のための科学教室サイネスを運営する福成洋さん

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今回のインタビューは起業家というくくりにははまらないのですが、日本の会社を辞めてオランダの会社に知識労働者として就職し移住してきた福成洋(ふくなりひろし)さんです。週末にアムステルフェーンの公民館で子供向けの科学教室「SciNeth(サイネス)」を開催している福成さんの教室に潜入し、お話を伺いました。P:ポートフォリオ、F:福成さん

P: まずオランダに移住しようと決めた理由を教えてください。

F: :3つありまして、家族との時間を増やすためがひとつ。もうひとつは子供の国際的教育のため。最後に、自分自身の海外経験のためです。日本にいるときはワーカホリックで、深夜の帰宅や週末の仕事も当たり前でした。ほぼ毎週飛行機/新幹線で出張でホテル滞在。当然子供と過ごす時間はほんの少し。出張に出かけるときは、娘が「パパ行かないで~!!」と号泣するのもしばしばで、そういう時は私の方が泣きたいぐらいでした。自分はこんな人生をおくりたかったのだろうかと自問しつつ、長い間温めてきた「海外移住」の機を探っていました。

P:  どのような経過でオランダに移住されたのですか?

F:日本では外資系企業のコンサルタントとして、大学や公的研究機関の研究戦略支援を行っていました。具体的には研究力評価のためのデータ分析を行い、日本・韓国のトップ研究大学に研究戦略上のコンサルティングを行います。2016年にこの会社(日本法人)を辞職し、同じ会社の本社(オランダ・アムステルダム)に現地採用として再就職しました。仕事内容も変わり、現在は当社が販売する研究論文プラットフォームのデータ分析や、社内各部署の目標管理(KPI)など、もっぱら社内業務に従事しています。 日本にいるときより給与は格段に低いですが、労働時間は大分短くなり、家族と過ごす時間が大幅に増えことで、満足しています。

P: ご家族についてお話くださいますか?

M: 妻と、7歳、4歳、2歳の子供がおります。妻は子育てをしながら科学関係の執筆や児童館や学童クラブで実験教室を開催していました。子どもたちは日本ではインターナショナルスクールに通って英語環境に慣れさせていたのですが、オランダでは今現地の学校で学んでいます。子どもたちはあっという間に慣れてオランダ語も流暢です。

P:オランダの教育は日本と比べるとどう違いますか?

F: まずオランダの教育環境は、自由で楽しいなぁ~といつも感じています。日本の学校と違って、ルール(校則)なんてほぼないようなもので、子供達はのびのびしているように思います。また、親の関与が大きいですね。毎朝子供達を教室まで送っていくのですが、子供達は毎朝学校でやってことを見せてくれるし、その場で先生とも立ち話や質問ができるのもいいですね。  教育内容については、日本では学習指導要領によって、学校で何を教えなければならないかを国ががんじがらめに決めていますが、オランダはいろんなタイプの学校があって、それぞれ自由に教育しているようです。オランダの教育といってもカトリック、プロテスタント、非宗教、イエナプラン、モンテッソーリなどたくさんありますので、身近で経験していることしか言えませんが。ちなみにうちの子供たちは、近所で空きのあったカトリックの小学校に通っています。  ただ、科学教育は全般的に心もとないですね。日本のように実験道具が揃っている理科教室もありません。オランダ人の同僚も、アムステルダムはSTEM教育の機会が少なく、テクノロジー教育の面ではとても遅れていると嘆いていました。日本人の駐在家族にとっては、オランダにいることで語学は伸びても、理科や社会で遅れるのが悩みだという話も聞いています。一方、地域差はあるようで、工科大学のあるアイントホーフェンやデルフトでは科学教育も盛んと聞いていますので、視察に行きたいと思っています。

P: なるほど。それで子供向けの科学教室「サイネス(SciNeth)」を開始されたわけですね。サイネスは福成さんと奥様の海央(みお)さんがお二人で始めた科学教室だそうですが。

F: はい。もともと子供との時間を作りたかったのは、自分たちで科学教育をしたいという希望があったからなのですが、どうせなら他の日本人家庭も巻き込んだほうが楽しいし効果的だろうと考えました。  低学年向けワークショップは海央が担当しており、今日は虹の原理を利用した万華鏡を作りました。高学年向けには私が、現在「乗り物の科学」シリーズを6回連続で開催しており、「重力」「空気抵抗」「揚力」「浮力」「推進力/プロペラ」と順に取り上げています。今日は"折り紙紙飛行機"や"切り紙飛行機"を作って飛ばしたり、「風洞実験」をする中で、「揚力」について学びました。このようなサイエンスワークショップは月に一度開催しています。このほかに、プログラミング教室とロボットワークショップを、幼稚園児、小学校低学年生、小学校高学年生、中学生向けに行っています。

P: 幼稚園児にプログラミングですか?

F: はい、でも幼稚園児がキーボードでプログラムを書くわけではありません(笑)。最初は、例えばCubettoという「積み木遊びの感覚で、試行錯誤しながら動かす木のロボット」を使います。ロボットの動きを、積み木のような部品を並べることで命令(コマンド)できるのですが、「前に3歩進んで、次に右に曲がれば、ロボットが学校に行けるね」などと、目的を定めてそこまでの道順を考えるという論理的思考を促す訓練です。

P: おもしろいですね! さきほど飛行機のワークショップを拝見させていただきましたが、黒板に向かって聞くだけの授業とは全く違う、実際に作って飛ばして学ぶというやりかたは、子供にとっても楽しいし学べますね。 授業もインタラクティブで、熱がこもっていました。福成さんは、今後もしばらくはオランダで働く予定ですか?

F: 永住とはいいませんが、子供がある程度自立できる年になるまで、あと10年ぐらいは住みたいと思っています。

P: ありがとうございました。次回は奥様の海央さんに別の視点からのオランダ移住について聞かせていただきます。

サイネス(Scineth)